大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和41年(ワ)3305号 判決 1967年1月18日

原告 岩田睦

原告訴訟代理人弁護士 松田孝

被告 ナシヨナルクラウン株式会社

被告訴訟代理人弁護士 前田知克

<外二名>

主文

被告は原告に対し、四六五万四、〇〇〇円およびこれに対する昭和四一年六月二四日から完済までの年五分の割合による金員を支払わなければならない。

原告の本位的請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その四を被告の負担とし、その一を原告の負担とする。

この判決は第一項に限り仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、本位的請求として、「被告は原告に対し、五五〇万円およびこれに対する昭和四一年七月三一日から支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払わなければならない」予備的請求として主文第一項同旨、および「訴訟費用は被告の負担とする」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

一、被告は別紙目録記載の各、約束手形を振出し、この手形には、同目録記載のとおり各裏書があり、なお原告は右手形のうち1ないし8の手形につき原告が最終裏書人として、他に裏書したが、現在その裏書は抹消されている。

原告は右各手形の所持人である。

二、原告は同目録1、2の手形を満期に支払場所に呈示したが、支払がなかった。

三、よって、被告に対し、右各手形金およびこれに対する最終の満期である昭和四一年七月三一日から完済までの年六分の割合による法定の利息の支払を求める。

四、もし、右各手形が正当に振出されたものでないとすれば、これらの手形は、被告の経理主任として、手形作成の事務を担当していた訴外宮田英夫こと吉羽英夫が被告の印判等を冒用して偽造した手形である。

原告は右各手形が偽造にかかるものとは知らず、正当に振出されたものと信じて、訴外日建鉄骨工事株式会社から取得したのであるが、右各手形の取得に当り、昭和四〇年一一月八日から昭和四一年二月二六日までの間に対価として四六五万四、〇〇〇円を同訴外会社に支払い、同額の損害を蒙った。これは、被告の使用人であった前記吉羽英夫が被告の事業の執行について不法の行為をし、それによって原告が受けた損害であるから、被告はその賠償をなすべきである。

五、よって被告に対し、予備的に右損害の賠償およびこれに対する準備書面送達後である昭和四一年六月二四日から完済までの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

被告訴訟代理人は、「原告の本位的および予備的請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、本位的および予備的各請求原因事業を否認すると答弁し、「本件各手形は、訴外吉羽英夫が被告の経理課員として勤務しているうちに、秘密裡に偽造したものである。同訴外人は被告の内部では経理主任の肩書を与えられていたが、その担当事務は、社内預金、人事募集広告、労働関係および保険関係の事務に限られており手形作成の事務は担当していなかった。したがって、本件各手形の偽造は同人の職務行為とは全く関係がなく、被告の事業についてした行為ではない」と附陳し、抗弁として、「仮りに本件各手形の偽造が被告の事業の執行についてなされたものとしても、被告は同訴外人の選任および監督につき、その注意を怠らなかったから、被告に使用者としての責任はない」と述べた。

証拠関係<省略>

理由

一、本位的請求について、

証人吉羽英夫、同柳田清の各証言によると本件各手形は、被告の経理主任であった訴外吉羽英夫が、訴外日建鉄骨工事株式会社の柳田清から融通手形の振出を懇請されて断り難く柳田の偽造にかか被告代表者名義の印判を用いて、偽造した手形であることが認められ、本件の全証拠をもってしてもこの認定を覆すに足りない。

したがって、原告の本位的請求はその余の点を判断するまでもなく、理由がなく棄却すべきである。

二、予備的請求について、

前記認定のとおり、本件各手形は、被告の経理主任であった訴外吉羽英夫が偽造した手形であるが、証人吉羽英夫、同金子辰夫の各証言を総合すると、訴外吉羽英夫は本件各手形を偽造した当時被告の経理主任であり(この点は当事者間に争いがない。)、その所掌事務は、人事、労務、保険関係の事務を主としていたが、なお、帳簿および銀行照会、突合等の事務を取扱っていたこと、被告の手形作成事務は、同訴外人の上司である経理部長および経理課長が担当するしきたりであったが、仕事の繁閑に応じて、同訴外人もまたその都度上司の指示により手形作成の準備(手形要件の記載記名判の捺印)等の事務を行っていたことの各事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

右事実によれば、手形作成の準備事務は、前記訴外人もその所掌事務としていたものであるから、同人が本件手形を偽造した行為は、同人の職務上の行為であり、被告の事業の執行についてした不法の行為であるというべきである。

したがって、被告は同訴外人の使用者として、本件手形の偽造行為により原告が受けた損害を賠償すべきである。

被告は同訴外人に対する選任および監督を怠らなかったと主張するけれどもその事実を認める証拠はない。

しかして、被告本人尋問の結果によると、被告は本件各手形を正当に振出されたものと思って、訴外日建鉄骨工事株式会社から取得したが、本件各手形を取得する対価として原告主張のとおりの金員を同訴外会社に支払い、同額の損害を受けたことが認められる。

そうだとすると、被告は原告に対し右損害の賠償として四六五万四、〇〇〇円およびこれに対する予備的請求の準備書面送達後である昭和四一年六月二四日から完済までの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があり、原告の予備的請求は理由がある<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例